夏になると必ず流れるニュースがあります。「学校プールの給水停止忘れにより、多額の水道代が発生した」という報道です。
数百万という損失に対し、現場の教諭が個人負担(賠償)を求められるケースも少なくありません。この問題、ネットで検索すると「水位計を設置すべき」「センサーを導入しろ」というハードウェアの話ばかりが出てきます。
しかし、予算のない学校現場で本当に必要なのは、高価な装置ではなく「情報が独り歩きせず、みんなに見える」というITの知恵ではないでしょうか。
繰り返される「給水ミス」の深刻な実態
過去、実際に起きた事例を振り返ると、その責任の重さに驚かされます。
事例1:神奈川県内の小学校(2023年)
約6日間にわたり水が流れ続け、損害額は約350万円。市は校長と担当教諭に対し、損害額の半額にあたる約175万円を連帯して個人負担するよう求めました。
事例2:高知県内の中学校(2022年)
給水バルブの閉め忘れで約220万円の損害。こちらも教職員に賠償が求められる事態となり、教育現場に大きな衝撃を与えました。
これらのニュースに対し、「不注意だ」と切り捨てるのは簡単です。しかし、プールの満水には数時間かかります。その間、先生は授業をし、会議をし、部活動を指導しています。「数時間後の予定を、一人で記憶に頼って管理する」こと自体が、そもそも構造的な欠陥なのです。
「誰かの善意」に支えられているプールの裏側
私の友人に、小学校の教諭がいます。彼は夏休み中、月曜日の授業に間に合わせるために、わざわざ休日に学校へ行ってプールの給水作業をしていました。
自宅から学校までは片道30分。往復1時間をかけ、無人の校舎で一人、バルブを開ける。それは誰に命令されたわけでもない、「休み明けに子供たちをプールに入れてあげたい」という一心での、無償の献身です。
そんな「善意の行動」の最中に、もし一本の電話が入ったら? 急なトラブルで意識が逸れてしまったら?
人間である以上、「絶対」はありません。しかし、今の仕組みではその「うっかり」の代償が、あまりにも残酷な形で個人に突きつけられます。
休日返上で尽くしている先生が、たった一度の「忘れ」で数百万の賠償を背負わされる。そんな悲しい事例を、これ以上増やしてはいけない。 「個人の記憶力」という一番不安定なものに頼るのではなく、ITの力で組織として支え合う仕組みがどうしても必要なのです。
「水位計」がないと解決できないのか?
確かに、満水になったら自動で止まる水位計や、通知を出すセンサーがあれば理想です。しかし、導入には工事や数十万円の予算が必要です。
そこで私が提案したいのは、「監視の目を一人にしない」というアプローチです。
💡 ITでできる「装置を使わない」解決策
- 「今、プールに水を入れています」という情報を全職員に共有する。
- 一定時間後に「まだ入れていますか?」と自動でリマインドを飛ばす。
- 担当者が忘れていても、Slackを見た他の先生が「あ、止まってないな」と気づける状態を作る。
「プール給水監視サポーター」で何が変わるか
今回開発したツールは、水位を測ることはできません。しかし、「給水の事実」をSlackに共有し、定期的に監視を促すことができます。
「一人で抱えない」ための仕組み:ツールの活用イメージ
このツールは、水位計のような「機械」ではありません。しかし、Slackという「職員室の広場」に情報を流すことで、孤独な管理をチームの協力に変えることができます。
先生がツールで「開始」を押すと、即座にSlackへ通知。これで「今、水を入れている」という事実を全員が把握できます。
設定した完了予定時刻に自動でリマインド。忙しい先生の代わりに、ツールが「そろそろですよ」と声をかけることもできます。
ここが重要です!
もし予定を過ぎても「停止」ボタンが押されない場合、定期的に警告通知が飛びます。本人が授業や急な対応で動けなくても、この通知が届きます。
「山田さん!プールの水、止め忘れているかも!?」
Slack上で他の先生が気づき、コメントを残してサポート。一人の記憶に頼らず、組織の「目」でリスクを回避します。
山田さん、もしくは代わりの人がバルブを閉めて停止。事後に山田さんはツールでも停止完了をする。ツールで停止すると記録がSlackに残り、「あれ、閉めたっけ?」という不安もなくなります。
もし、私の友人がこのツールを使っていたら。
休日に一人で学校へ行った際も、Slackの向こう側に誰かがいる安心感があったはずです。万が一、彼が帰り道に何かを忘れても、通知を見た同僚がカバーできたかもしれません。 「誰かがサポートできる状態」を作ること。 それこそが、多忙を極める先生方を守る唯一の手段だと信じています。
このツールの最大のメリットは、「誰か一人のミス」を「組織の気づき」に変えられる点です。 Slackという職員室のデジタル掲示板に通知が流れることで、主担当が授業中であっても、空き時間の先生が「まだ通知が出てるな、止めてこようか?」と動けるようになります。
ITは「不便」を補うためにある
このツールは無料公開しているため、不便な点もあるかもしれません。しかし、数百万円の賠償という恐怖に対し、「今すぐ、無料で、自分たちの運用で」対策を始められることに意味があると考えています。
「装置がないから仕方ない」と諦める前に、まずはITによる「共有」を始めてみませんか。先生が教育という本来の仕事に集中できるよう、技術の力で背中を支えたい。それがこのツールに込めた想いです。